LosslessCutとは?
LosslessCut(ロスレスカット)は、動画や音声ファイルを再エンコードなしで高速にカット・結合・編集できるオープンソースの無料ツールです。開発者はノルウェーのMikael Finstad(mifi)氏で、2016年から継続的に開発が続けられており、GitHubでは29,600以上のスターを獲得している人気プロジェクトです。
「ロスレス(lossless=無劣化)」の名前が示す通り、LosslessCutの最大の特徴は、映像・音声データを一切再エンコードしない処理方式にあります。一般的な動画編集ソフトはカットやトリミングの際にファイル全体を再エンコードするため、処理に長い時間がかかり、画質・音質の劣化も避けられません。LosslessCutはFFmpegをバックエンドに使い、元データをほぼそのままコピーする方式で処理するため、数GBの大容量ファイルでも数秒〜十数秒で編集が完了します。しかも、元ファイルと完全に同じ品質が維持されます。
対応OSはWindows、macOS(Intel/Apple Silicon)、Linuxの3プラットフォーム。GoProやドローン(DJI)で撮影した大容量の4K動画から、会議の録画ファイル、ポッドキャストの音声ファイルまで、「余分な部分をサッとカットして保存したい」あらゆるシーンで威力を発揮します。公式サイトでは「ロスレス動画/音声編集のスイスアーミーナイフ」と紹介されています。
無料版と有料版の違い
LosslessCutは基本的に完全無料で利用できます。GitHubから直接ダウンロードすれば、すべての機能が制限なく使用可能で、透かしやライセンスキーも一切不要です。
一方で、Microsoft Store(Windows)およびMac App Storeでは、20〜25ドル程度の有料版も販売されています。ここで重要なのは、無料版と有料版に機能の違いはまったくないという点です。同じソースコードから同じようにビルドされた、まったく同じアプリケーションです。
| 項目 | 無料版(GitHub) | 有料版(Store) |
|---|---|---|
| 価格 | 無料 | 約20〜25ドル(約3,000〜3,800円) |
| 機能 | すべての機能を利用可能 | すべての機能を利用可能(同一) |
| アップデート | 手動(GitHubから新バージョンをダウンロード) | 自動(Storeのアップデート機能) |
| デジタル署名 | なし(初回起動時にOS警告あり) | あり(SmartScreen/Gatekeeper警告なし) |
| インストール方式 | ポータブル(インストール不要) | Store経由でインストール |
| 開発者への支援 | なし(別途寄付は可能) | 購入代金が開発者の支援になる |
有料版を購入する主なメリットは、自動アップデートが受けられることと、OSの署名警告が表示されない点、そして開発者へのサポートになるという3点です。社内のITポリシーで署名のないソフトウェアの実行がブロックされている環境では、Store版が唯一の選択肢になる場合もあります。とはいえ機能面は完全に同一なので、まずは無料版で試してみて、気に入ったらStore版の購入で開発者を応援する、というのが最もスマートな使い方です。
LosslessCutの主な機能
LosslessCutは単なる「動画カッター」にとどまらず、FFmpegのパワーを活かした多彩な機能を備えています。
ロスレスカット(無劣化トリミング)
最もコアとなる機能です。動画や音声ファイルの任意の範囲を指定して、再エンコードなしで高速に切り出します。キーフレーム(Iフレーム)単位でカットされるため、処理は一瞬で完了し、画質の劣化は発生しません。1つのファイルから複数のセグメント(区間)を同時に指定して一括書き出しすることもできます。
ただし、ロスレスカットではカットポイントが最寄りのキーフレームに自動調整されるため、フレーム単位の正確なカットが必要な場合は「スマートカット(実験的機能)」を使用します。スマートカットは、カットポイント付近のごくわずかな範囲だけを再エンコードし、残りの大部分はロスレスのままコピーする方式で、精度と速度のバランスに優れています。
ロスレス結合(連結・マージ)
同一コーデック・解像度の複数ファイルを、再エンコードなしで1つのファイルに結合できます。GoProやドローンが4GBごとに分割して記録したファイル群を元通りつなぎ合わせたり、イベント録画の複数パートを1ファイルにまとめるといった用途に最適です。結合時にはチャプターマーカーを自動挿入することもできます。
マルチトラック編集
動画ファイルに含まれる映像・音声・字幕・添付ファイルなどの各トラックを個別に操作できます。不要な音声トラックの削除、外部の音楽ファイルや字幕ファイルの追加、特定トラックだけの抽出(動画から音声だけを取り出す等)が自由に行えます。別々に録音した映像と音声を1つのファイルにまとめるといった使い方も可能です。
コンテナ形式の変換(リマックス)
動画の映像・音声データはそのままに、コンテナ形式(ファイル形式)だけを変換する「リマックス」が行えます。たとえば、MKV形式のH.264動画をMP4やMOVに変換してiPhoneで再生可能にする、といった処理が再エンコードなしで瞬時に完了します。
スクリーンショット・フレーム画像の書き出し
動画の任意のフレームをJPEGまたはPNG形式の高解像度画像として保存できます。一定間隔(N秒ごと、Nフレームごと)での連続キャプチャや、シーンチェンジの自動検出に基づく代表フレームの書き出しにも対応しています。
シーン自動検出
FFmpegのフィルター機能を活用し、黒画面(ブラックシーン)の検出、無音部分の検出、シーンチェンジ(場面転換)の自動検出が行えます。長時間の録画ファイルを自動的にシーンごとに分割したり、CMをカットする際の切り出しポイントを自動的に見つけたりするのに非常に便利です。
メタデータ・チャプター編集
ファイルのメタデータ(タイトル、著者、撮影日時、GPS位置情報など)やトラックごとのメタデータ、MKV/MP4のチャプターマーカーを直接編集できます。動画の回転フラグの修正や、サムネイル画像の埋め込みも可能です。DJIドローンのGPSデータをマップ上に表示する機能も搭載されています。
プロジェクトのインポート/エクスポート
カットポイントの情報をCSV、CUE、XML(DaVinci Resolve / Final Cut Pro形式)、YouTubeチャプター形式、EDL(Edit Decision List)などの多彩な形式でインポート/エクスポートできます。他のツールで作成した編集リストをLosslessCutに読み込んでカット処理を実行する、といったワークフローが構築できます。
その他の機能
CLIおよびHTTP APIによる外部からの制御、カスタマイズ可能なキーボードショートカット、ダークモード、波形表示、サムネイルプレビュー、タイムラインズーム、キーフレームジャンプ、セグメントのラベル付けとタグ管理、JavaScript式によるセグメントの一括操作、HTTP経由での動画ダウンロード(HLSなど)にも対応しています。
対応フォーマット
LosslessCutはFFmpegをベースとしているため、対応フォーマットは極めて広範です。
内蔵のChromiumベースプレーヤーでネイティブ再生できるフォーマットとして、コンテナ形式はMP4、MOV、WebM、Matroska(MKV)、OGG、WAVが挙げられます。映像コーデックはH.264、AV1、Theora、VP8、VP9、H.265(ハードウェアデコーダー利用時)に対応し、音声コーデックはFLAC、MP3、Opus、PCM、Vorbis、AACをサポートしています。
上記以外のフォーマットであっても、「FFmpegアシスト再生」モードを使えばプレビュー可能です。この場合、プレビュー用に低画質の一時ファイルが自動生成されますが、実際のカット・書き出し処理は元ファイルに対して行われるためロスレスが維持されます。つまり、FFmpegがデコードできるファイルであれば、事実上ほぼすべての形式に対応しているといえます。
入力ファイルとして具体的に対応が確認されている形式には、MP4、MKV、MOV、WebM、AVI、DIVX、FLV、3GP、WMV、VOB、DCMなどが含まれます。出力は入力と同じコンテナ形式のほか、リマックス機能で別のコンテナに変換して書き出すことも可能です。
ダウンロードとインストール方法
Windows
GitHubリリースページから「LosslessCut-win-x64.7z」(約226MB)をダウンロードし、7-ZipまたはWinRARで任意のフォルダに解凍します。解凍したフォルダ内の「LosslessCut.exe」をダブルクリックすれば起動します。インストーラーは存在せず、レジストリの変更も行われない完全なポータブルアプリです。USBメモリに入れて持ち運ぶこともできます。
初回起動時にWindows SmartScreenが「WindowsによってPCが保護されました」と警告を表示する場合がありますが、これはアプリがデジタル署名されていないためです。「詳細情報」をクリックし、「実行」を選択すれば問題なく起動できます。
なお、Windows 7およびWindows 8.1はバージョン3.50.0以降サポート対象外となっています。
macOS
Intel Macの場合はx64 DMG(約261MB)、Apple Silicon(M1〜M4)の場合はarm64 DMG(約273MB)をダウンロードします。DMGを開いてLosslessCutアプリをApplicationsフォルダにドラッグすればインストール完了です。
初回起動時にGatekeeperがブロックする場合は、「システム設定 > プライバシーとセキュリティ」から「このまま開く」を選択します。「LosslessCutが壊れているため開けません」と表示される場合は、ターミナルで xattr -cr /Applications/LosslessCut.app を実行した後に再度起動してください。macOS 10以前のバージョンはv3.65.0以降サポート対象外です。
Linux
x64 AppImage(約317MB)が最も手軽な選択肢です。ダウンロード後に chmod +x LosslessCut-linux-x86_64.AppImage で実行権限を付与し、直接実行します。SnapやFlathubからのインストールにも対応しており、Raspberry Pi向けのarmv7lビルドも提供されています。
LosslessCutの使い方:基本ステップ
ステップ1:ファイルを開く
LosslessCutのメイン画面に動画ファイルをドラッグ&ドロップするか、Ctrl+O(macOSではCmd+O)でファイルを選択します。ファイルが読み込まれると、中央にプレビュー画面が表示され、画面下部にタイムラインと波形が描画されます。
ステップ2:カット範囲を指定する
タイムライン上で再生ヘッドをカットしたい場面の開始位置に移動し、キーボードの「I」キーを押してセグメントの開始点を設定します。次に、カットしたい場面の終了位置まで移動し、「O」キーで終了点を設定します。指定した範囲がタイムライン上にハイライト表示されます。
フレーム単位の移動は「,」キー(1フレーム戻る)と「.」キー(1フレーム進む)、キーフレーム間のジャンプはShift+矢印キーで行えます。スペースキーで再生/一時停止です。
複数のセグメントを作成したい場合は、「+」キーで新しいセグメントを追加できます。不要なセグメントはBackspaceキーで削除します。ツールバーの陰陽マーク(反転ボタン)をクリックすると、選択範囲の「逆」がエクスポート対象になります。つまり、指定した範囲を「残す」のではなく「削除する」操作に切り替えられます。CMカットや不要部分の除去に便利です。
ステップ3:出力設定を確認する
画面左上の「トラック」ボタンをクリックすると、ファイルに含まれるすべてのトラック(映像・音声・字幕等)が一覧表示されます。出力したくないトラックのアイコンをクリックしてグレーアウトさせれば、そのトラックは書き出しから除外されます。外部ファイルからのトラック追加もここから行えます。
動画の回転が必要な場合は、画面右下の回転ボタンをクリックすることで0度/90度/180度/270度と切り替えられます。
ステップ4:エクスポートする
「E」キーを押すか、画面右下の「出力」ボタンをクリックします。出力オプション画面が表示され、キーフレーム切り取りの方式やスマートカットの有効/無効などを設定できます。
デフォルトではキーフレーム切り取りが有効になっており、最寄りのキーフレームを基準にカットが行われます。フレーム単位の正確さが必要な場合は「スマート切り取り(試験的)」をオンにします。
設定が完了したら「出力」ボタン(複数セグメントを結合して出力する場合は「出力 + 結合」ボタン)をクリックすると、処理が実行されます。ロスレス方式のため、処理は通常数秒で完了します。出力ファイルはソースファイルと同じフォルダ(またはカスタム出力先)に保存されます。
ステップ5:ファイルを結合する
複数ファイルの結合は、メニューバーの「ツール」→「ファイルの結合 / 連結」から行います。連結したいファイルをすべて選択すると、ファイルリスト画面が表示されます。ドラッグ&ドロップで連結の順番を調整し、「結合!」ボタンをクリックすれば完了です。
「互換性の検査」にチェックを入れると、異なるコーデックや解像度のファイルが混在していないかを事前にチェックすることもできます。連結対象のファイルに複数の音声トラックが含まれる場合、デフォルトではメイントラック以外は削除されるため、すべてのトラックを維持したい場合はオプションで「すべてのトラックを含める」にチェックを入れます。
覚えておきたいキーボードショートカット
LosslessCutはキーボードショートカット主体の操作設計になっており、ショートカットを覚えると作業効率が大幅に向上します。特によく使うものを以下にまとめます。
| ショートカット | 操作 |
|---|---|
| スペース | 再生 / 一時停止 |
| → / ← | 1秒進む / 戻る |
| . / , | 1フレーム進む / 戻る |
| I | セグメント開始点を設定 |
| O | セグメント終了点を設定 |
| E | エクスポート(書き出し) |
| + | 新しいセグメントを追加 |
| B | 現在位置でセグメントを分割 |
| Backspace | 現在のセグメントを削除 |
| C | スクリーンショットを撮影 |
| J / L | 再生速度ダウン / アップ |
| Ctrl+Z | 元に戻す |
| Shift+/ | すべてのショートカットを表示 |
ショートカットは設定画面から自由にカスタマイズでき、操作スタイルに合わせた独自のキー配置を構築できます。
LosslessCutのメリットと注意点
LosslessCutの最大の強みは、その圧倒的な処理速度と品質の維持です。10GBを超える大容量ファイルでも、カット処理はSSD環境であれば十数秒で完了します。再エンコードが発生しないため、元ファイルとまったく同じ画質・音質が保証されます。ポータブルアプリのためインストール不要で環境を汚さず、オープンソースかつ完全無料という点も大きな魅力です。
一方で、いくつかの制約も理解しておく必要があります。最も重要なのが「キーフレーム問題」です。ロスレスカットではキーフレーム単位でしかカットできないため、指定した時間ぴったりにカットされるとは限りません。H.264やH.265のような一般的なコーデックでは、キーフレームの間隔が1〜10秒程度あるため、数秒のズレが生じる可能性があります。フレーム単位の精度が必要な場合はスマートカットを使う必要がありますが、これは実験的機能であり、処理時間もわずかに増加します。
また、LosslessCutはあくまでカット・結合・トラック操作に特化したツールであり、テロップの挿入、エフェクトの適用、カラーグレーディング、BGMの音量調整といった「編集」作業はできません。そうした作業が必要な場合は、LosslessCutで大まかなカット処理を行った後に、Clipchamp、DaVinci Resolve、Adobe Premiere Proなどの本格的な動画編集ソフトで仕上げるというワークフローが有効です。
ファイルの結合に際しては、すべてのファイルが同一のコーデック・解像度・フレームレートである必要がある点にも注意が必要です。異なるフォーマットのファイルを結合しようとすると、エラーになるか、再生に問題のあるファイルが出力されます。
Clipchampとの使い分け
前回の記事で紹介したClipchampとLosslessCutは、一見すると同じ「動画編集ツール」ですが、実際には得意分野がまったく異なります。
Clipchampはテロップ、BGM、エフェクト、AI自動キャプション、テンプレートなどを駆使して「動画コンテンツを作り上げる」ための総合編集ツールです。一方LosslessCutは、大容量ファイルから不要部分をカットする、録画ファイルを結合する、特定のトラックを抽出するといった「素材の下処理」に特化した高速ツールです。
GoProで撮影した2時間の素材から使える場面だけを切り出す作業はLosslessCutの独壇場であり、切り出した素材にテロップやBGMをつけてYouTube動画に仕上げる作業はClipchampの守備範囲です。両者を組み合わせることで、素材の下処理から最終編集までを無料ツールだけで完結させるワークフローが構築できます。
まとめ
LosslessCutは、動画や音声ファイルの無劣化カット・結合に特化したオープンソースの無料ツールです。再エンコードが発生しないため処理が驚くほど速く、元の品質を完全に維持したまま編集できます。Windows、macOS、Linuxに対応し、ポータブル版ならインストールも不要。GitHubからダウンロードすればすべての機能が無料で使え、有料のStore版と機能差はありません。
大容量の動画をサクッとカットしたい、録画ファイルを結合したい、音声トラックだけを抜き出したい ―― そんな「ちょっとした、でも頻繁に発生する」作業に、LosslessCutはこの上なく頼りになるツールです。





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